大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所八王子支部 昭和48年(ワ)342号 判決 1975年12月15日

原告

小田博愛

被告

東京都

ほか三名

主文

一  被告らは連帯して原告に対し、金一四九万三、九〇〇円及びこれに対する昭和四七年一月一二日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告らは連帯して原告に対し金二四一万円及びこれに対する昭和四七年一月一二日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決及び仮執行宣言

二  被告ら

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決

第二当事者の主張

一  請求原因

1  (本件事故の発生および原告家屋の損傷状況)

昭和四七年一月一一日午前六時ごろ、被告冨樫勝の運転する大型貨物自動車(ダンプカー)(以下本件加害車という。)が砂利を満載したまま日野市新井七九七番地の一〇先道路(以下本件道路という。)上から転落して、原告が所有し居住する家屋(以下原告家屋という。)にとびこむ事故(以下本件事故という。)が発生した。

本件事故により、原告家屋は、直接本件加害車がとびこんだ四畳半の部屋はひどく破壊され、その余の部分も傾いたり、壁や風呂場にひび割れを生じ、塀の一部も損壊する等大きな損害を受けた。

2  (被告らの責任原因)

(一) 被告冨樫勝

被告冨樫は砂利を満載した本件加害車を運転し、本件道路上を日野橋方面より多摩動物公園方面に向け時速三〇キロメートル以上で進行中、対向車であるバスとすれ違おうとしたが、本件事故現場付近は同被告の進行方面に向つて右曲りにややカーブしており、道路幅員もせまく、かつ同日は雨のため路面が濡れていてスリツプし易い状態にあつたから、一時停止または徐行をして安全を期すべきであつたのにもかかわらず漫然前記速度のまますれ違おうとして、直前で接触の危険を感じハンドルを左に切つたため、路肩に自車の左側車輪をめりこませたうえ道路下に転落し、道路下にある原告家屋に衝突したものである。

以上のように本件事故は同被告の運転操作上の過失に基き発生したものであるから、同被告は民法七〇九条の不法行為責任を負う。

(二) 被告鄭孝一

被告鄭は同冨樫を雇用し、自己所有の本件加害車に乗務させ、砂利運搬の業務に従事させていたところ、同冨樫は右業務執行中本件事故を起したから民法七一五条の使用者責任を負う。

(三) 被告株式会社吉田商店(以下被告吉田商店という。)

被告吉田商店は砂利運搬を主たる業としていたところ、常時同鄭に下請をさせていた(さらに同鄭が自分の住所又は連絡先を同吉田商店とし、被告車の側面にも「吉田商店」のマークを入れることを許していた。)関係で、同冨樫に対して直接ないし間接の支配監督を及ぼしていたから、同鄭とともに民法七一五条の使用者責任を負う。

(四) 被告東京都

被告東京都は本件道路の管理者である。ところで本件道路中、本件事故現場付近は昭和四六年一二月ごろまで歩車道の区別がなかつたが、同被告は同月ごろから従前の路肩部分に土を盛つて歩道を設置する工事を開始したところ、本件事故現場付近は前記のようにややカーブしているのでスピードの出過ぎた車両やすれ違う車両が路肩部分まではみ出しやすく、しかも路肩のすぐ下は約一・五メートルの崖になつており、崖下には人家があるから、路肩部分の地盤が軟弱であれば、路肩にはみ出した車両が路肩の崩壊により崖下に転落し、人家に被害を及ぼす危険が当然予想されたのにもかかわらず、同被告は右工事に際して土を盛つたまま軟弱な路肩を放置したうえ、右路肩部分に車がはみ出さないようにするための防護措置も施さなかつた結果、同冨樫は右軟弱な路肩部分に加害車をはみ出させ、もつて本件事故を発生させた。よつて同被告は国家賠償法二条一項による責任を負うべきである。

3  (損害)

本件事故により原告の受けた損害はつぎのとおりである。

(一) 家屋修復費 金一五二万五、〇〇〇円

(二) 家具その他什器備品 金一八万五、〇〇〇円

(三) 慰藉料 金五〇万円

原告は本件事故により居住している家屋を破壊され、日常生活上甚大な不便、不利益を受けて、それに伴う精神的苦痛を蒙つた。右精神的苦痛に対する慰藉料は少くとも金五〇万円をもつて相当とする。

(四) 弁護士費用 金二〇万円

原告は弁護士太田雍也に本件につき訴訟を委任し、すでに着手金として金一〇万円を支払い、更に報酬として金一〇万円を支払うことを約したが、右弁護士費用は本件事故と相当因果関係のある損害である。

4  よつて被告らに対し、連帯して右損害金合計金二四一万円及びこれに対する不法行為日の翌日である昭和四七年一月一二日から完済まで法定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する答弁

(被告冨樫)

1 請求原因第1項認める。

2 同第2項(一)、争う。本件事故は被告冨樫にとつては不可抗力に基くものである。

3 同第3項中、(一)家屋修復費は金五〇万円ないし六〇万円が限度であつて、右額を越える部分については否認。

同(二)、否認。

同(三)、争う。

同(四)、争う。

4 同第4項、争う。

(被告鄭)

1 請求原因第1項、認める。

2 同第2項、(一)、(二)争う。但し本件加害車が被告鄭の所有であることは認める。

3 同第3項、不知。

4 同第4項、争う。

(被告吉田商店)

1 請求原因第1項中、被告冨樫が事故を起した点は認めるが、その余は不知。

2 同第2項中、(一)、(三)は争う。すなわち同吉田商店と同鄭との関係については、同吉田商店は同鄭に建材の運搬の下請をさせていたが、同鄭はとくは同吉田商店に専属していたわけではなく、同吉田商店の仕事は五〇パーセントないし六〇パーセントぐらいであつて、他は友人から紹介された仕事を行つていたし、本件加害車の「吉田商店」のマークも自動車販売会社が勝手に入れたもの程度の認識しかなかつた。さらに本件事故は同鄭の被用者同冨樫が訴外田村石材発注の運送業務を行つていたときの事故であるが、同吉田商店は右田村石材協力会に加入はしていたものの、自らは田村石材の仕事は殆んどせず、同鄭がもつぱら同吉田商店を通さず直接受注して行い、右協力会加入も同鄭では加入資格がないために同吉田商店が加入していたに過ぎないのである。従つて田村石材発注の運送業務は同鄭個人の業務であり、同吉田商店の行つていた業務ではないし、右業務に関し、同吉田商店が同鄭及び同冨樫に対し支配監督関係を有してはいなかつた。よつて同吉田商店が同冨樫の起した本件事故の責任を負ういわれはない。

3 同第3項、いずれも争う。とくに(三)慰藉料請求については、財産権の侵害に伴う精神的損害は、財産的損害が賠償されれば回復されるのが通常であり、仮に回復しきれない精神的損害があつたとしても、それは特別事情による損害であるから当事者が右事情を知り、または知りうべきであつた場合に限るべきところ、本件では右場合に当らないから失当である。

4 同第4項、争う。

(被告東京都)

1 請求原因第1項中、本件加害車が砂利を満載したまま原告家屋にとびこみ原告家屋の一部と塀の一部を破壊したことは認め、その余は不知。

2 同第2項(四)中、本件道路の管理者が被告東京都であること、同被告が昭和四六年一二月に工事を行つたことおよび路肩の下は一・五メートル程度の崖になつていることは認め、その余は否認。同被告の責任については争う。

すなわち

(1) 本件道路中、本件事故現場付近の路肩部分は地元の日野警察署の要望により昭和四六年一一月三〇日から同年一二月二六日までの間に、事実上歩道として利用できるように同被告が工事を施行したのであつて、本件事故時にはすでに右工事は完成していた。

以上のように右路肩部分は、専ら歩道として利用されることを予想して改修されたものであつて、主要道路部分(車道部分)が舗装されているのに対して未舗装であり、しかも本件事故現場付近には消火栓標示ポールが設置されていて、自動車が進行できない路肩部分(歩道)であることは一見して明白であつたし、また主要道路部分は幅員が五・六メートルもあるうえ、本件事故現場付近は見通のよい直線部分であり、落石、土砂崩等の発生の可能性もない場所であつたから、車両が対向車からの退避や危難を避けるために乗り入れることも通常予想されなかつた。

従つて右路肩部分は車両の通行を前提としての安全性を具える必要性はなく、歩道としての安全性を具備していれば十分であつて、現に右路肩部分は右安全性に欠けるところはなかつた。また車両が路肩部分にはみださないようにするための防護措置も車両が路肩部分にはみだすことが予想されない以上、右防護施設が設置されていなかつたことは瑕疵とはならない。

(2) 仮に本件道路の路肩部分に瑕疵があつたとしても本件事故は、本件加害車の運転手被告冨樫が運転を過つて路肩上に立つていた消火栓標示ポールを押し倒し、路肩部分をのり越えて、路肩と原告宅の中間にあつたコンクリート製電柱と衝突して原告宅に飛びこんだものであつて、路肩部分の瑕疵とは因果関係のない事故である。

3 同第3項、いずれも争う。とくに慰藉料請求については、被告吉田商店の主張と同様の理由により強く争う。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因第1項の事実(本件事故の発生および原告家屋の損傷状況)は、原告と被告冨樫、同鄭間では当事者間に争がなく、原告と被告吉田商店との間では被告冨樫が事故を起したこと、原告と被告東京都との間では本件加害車が砂利を満載したまま原告家屋にとびこみ原告家屋の一部と塀の一部を損壊したことはいずれも当事者間に争がなく、その余の事実については、いずれも右当時者間で〔証拠略〕により、これを認める。

二  本件事故の具体的態様

〔証拠略〕を総合するとつぎの事実が認められる。

本件道路は都道一五四号線(通称相模原立川線)であり、本件事故当日は雨天であつたが、被告冨樫は本件加害車(八トン車)に砂利約一二トンを積載して右道路上を日野橋方面から多摩動物公園方面へ向けて時速約三〇キロメートルで走行し、本件事故現場付近へさしかかつてきた。ところで本件事故現場の手前約二〇メートルの地点では本件道路は車道(舗装)幅員五・六メートルであり、その同車進行左側には本件事故現場にかけて高さ約一・五メートルの道路のり面に板による土止を施したうえその間に盛土をして路肩を拡幅した幅員〇・七メートルないし一メートルの簡易歩道(盛土をしただけで未舗装)(以下路肩部分という。)が設けられていたが、同被告は同地点で対向してきた大型バスとすれ違おうとして前記速度のまま車道左一ぱいに本件加害車を寄せたところ、その左側車輪を車道からはみ出させて右路肩部分(ただし車道直近部分)に落してしまい、そのまま一〇数メートル直進して本件事故現場手前約九メートル付近にある消火栓標示ポールのさらに四、五メートル手前付近に達したが、同地点付近は路肩部分の地盤が軟弱であつて本件加害車の重量を支えることができず、その前車輪の負荷によつて陥没するとともに左に崩壊したため、本件加害車は車体が左に傾き、かつ前車輪も左へスリツプして車両の進行方向をやや左向に転じて本件事故現場直前にある本件道路と直角に接続する私道を乗り越えて同車右前部を原告家屋の直前にある電柱に衝突させてこれを折損しつつ本件道路から転落し、原告家屋になかば横倒しの状態でとびこんだ。

以上の事実が認められる。

ところで〔証拠略〕には、本件加害車が本件道路の路肩部分に左側車輪を落して直進した後左へ方向をかえた地点は右私道上であるようなスリツプ痕が残されていたかのごとき記載があり、〔証拠略〕によれば、右路肩部分には本件加害車の左後輪の轍と認められるダブルタイヤの痕が残されているが、右ダブルタイヤ痕は車道縁に沿つて直進した後前記消火栓標示ポールの五、六メートル手前から次第に方向を左に転じ路肩崩壊箇所に至つていることが認められ、しかも右ダブルタイヤ痕はその痕跡が明らかに残存している右消火栓標示ポール二、三メートル手前まで横すべりの跡はないから、右ダブルタイヤの左への方向転換は本件加害車自体の左への方向転換に伴うものと推認されるところ、本件加害車にそのような左への方向転換をもたらした前輪の左へのスリツプ地点は、車道沿に設置されている消火栓標示ポール土台及びその付近にタノヤ通過痕跡のないこと(〔証拠略〕による。)及び前記左後輪ダブルタイヤ痕の方向転換地点(なお〔証拠略〕によれば本件加害車のホイール・ベースは五メートル前後と認められる。)及び〔証拠略〕によつて認められる消火栓標示ポール五、六メートル手前から始まり二、三メートル手前を中心に路肩部分にかなりの深さの陥没跡が残存する事実に照せば、右消火栓標示ポールより手前であつたことが認められるのである。

他に前記認定を左右するに足りる証拠はない。

三  被告らの責任

右認定の事実を基礎に被告らの責任について判断する。

1  被告冨樫

本件事故当日は雨天であり、しかも本件加害車には最大積載量以上の重量の砂利を積載していたのであるから、被告冨樫は本件加害車の車輪を必ずしも地盤が強固でないことが予想される未舗装の路肩部分にはみ出させることは厳に避けるべきであつた(なお車両制限令九条によつても自動車が路肩にはみ出すことは禁じられている。)のにもかかわらず、対向車を避けるためとはいえ左に寄りすぎて路肩部分に車輪を落して運転したことは同被告の過失であり、その結果本件事故を発生させたから、同被告は民法七〇九条による損害賠償責任を負うべきである。

2  被告鄭

〔証拠略〕によれば、被告鄭は同冨樫の使用者であり、本件事故は同冨樫が同鄭の事業執行中に起したと認められるから、同鄭は民法七一五条により使用者としての責任を負うべきである。

3  被告吉田商店

〔証拠略〕を総合すれば、被告吉田商店と同鄭との間につぎのような事実が認められる。

(イ)  同吉田商店は本件事故当時建築資材の運搬を業としていたところ、自己所有の車両は二台のみであつて、大部分の営業は車両持込の下請業者(車両合計約一〇台)を使用して行なつていたが、その営業活動に便宜をはかるためそれらの持込車両の荷台側面に大きく吉田商店名を記載させ、右下請業者らに仕事をさせたとき(下請業者らは同被告名をもつて注文主のところへ行つて仕事の注文を受ける。)は、同被告が注文主からその代金を集金して仕事を行つた下請業者に支払つていたが、その際そのうち一〇パーセントを経費名義で天引取得していた。

(ロ)  同鄭もかなり以前から同吉田商店の右のような下請業者の一人であり、本件加害車を購入する際は同吉田商店の取締役である吉田顕次に手形を振出してもらつたり、同吉田商店を連絡場所に使用したことがあるなど、同吉田商店とは密接な関係にあり、かつその仕事の主力(約六割)も同吉田商店に仰ぎ、その余は親戚やダンプカーの運転手仲間等個人的知合からもらう仕事で埋めていた。そして同被告所有の本件加害車(右事実は原告と同被告間で争がない。)の荷台側面にも大きく吉田商店名が記載されていた。

(ハ)  本件事故の際同鄭が同冨樫に行わせていた砂利運搬は田村石材発注の仕事であつた。ところで田村石材は同社発注の運送業務を同社の協力会加入者だけに行わせており、右協力会への加入資格は車両を五台以上集めることができること及び積荷の紛失事故及び運送中の交通事故による責任を負担する意思と能力があることであり、同吉田商店が右有資格者としてこれに加入していたが、同被告はその仕事を同鄭ら同被告の下請業者に行わせ、同被告は前記同様の方法で仕事を行つた下請業者からその代金の一〇パーセントを取得していた。本件事故当日同鄭は他に仕事がなかつたので同吉田商店に電話連絡したところ、同被告から田村石材へ行けば仕事がある旨の指示を受けたので、同冨樫に田村石材へ行かせ、同社から同吉田商店名で砂利運搬を請負つて同冨樫がこれを遂行中、本件事故を起したものである。

以上の事実が認められ、〔証拠略〕中、右認定に反する部分は採用せず、他にこれに反する証拠はない。

右認定の事実によれば、同吉田商店は同鄭ら車両持込の下請業者を支配使用することでその建築資材運搬業としての営業を成立させていたということができ、しかも右下請業者らの持込車両の車体には同被告名を記載させて同被告との関係を外部に表示していたのであり、またこれを同鄭の側から見ると、同被告の仕事の主力は同吉田商店から受ける仕事であつて、他は個人的知合から持込まれる散発的なものであり、さらにその他の同吉田商店との密接な関係をも総合すると、同被告は同吉田商店の専属ともいえるほどの密着した関係にあつたということができる。右事実のもとでは同吉田商店と同鄭との間には指揮監督関係が及んでいたと認めることが相当であり、本件事故は同吉田商店の指示によつて同吉田商店名義で同鄭が行つた田村石材発注の砂利運搬業務の遂行中に発生したものであるから、同吉田商店は同鄭の被用者同冨樫の起した本件事故につき民法七一五条の規定に基く使用者責任を負うべきである。

4  東京都

本件事故原因は本件道路の面から見ると、本件加害車のはみ出しによる路肩部分の陥没と崩壊にあることは前記認定のとおりである。ところで車両制限令第九条により車両が路肩を通行することは禁止されており、しかも本件道路においては右路肩部分は未舗装であつて舗装された車道とは明らかに区別され、また本件事故現場付近には路肩部分に車両の通行の障害になる消火栓標示ポールが設置してあるから、車両運転者が故意に路肩部分に車両をはみ出させることは通常予想されないといえる。しかし本件道路の車道幅員は五・六メートルしかなく、しかも車道と路肩部分の段差は約三センチメートル(〔証拠略〕により認める。)であつてその間に特段の防護施設もないから、車幅の大きい大型車同士がすれ違う場合過失により路肩部分にはみ出すことは十分に予想され、路肩部分の端の方ならば格別、車道に近い部分においてはそのような場合にも耐えられるだけの強度を備えなければならないというべきであり、〔証拠略〕によれば、現に被告東京都もそれを予想しそれに備えて、本件事故直前である昭和四六年一一月三〇日から同年一二月二三日までの間に行われた路肩部分の拡幅工事において、砕石を積載した大型ダンプカーが誤つて乗り入れた場合にも耐えうるだけの強度を有するように設計、工事監督が行われたことが認められる。そうすると本件加害車のはみ出し通行によつて陥没崩壊した路肩部分は道路が通常備えるべき安全性に欠けていたというべきであり、公の営造物である本件道路の設置、管理者である同被告当事者間に争がない。国家賠償法第二条の規定に基づき、右瑕疵によつて生じた原告の損害を賠償する責に任ずべきである。

四  損害

1  家屋修復費

〔証拠略〕によれば、原告は昭和四八年四月ごろ、本件事故により損害を受けた原告家庭の基礎工事を除く応急的な復旧工事を行つた結果、その工事費として金九七万四、〇〇〇円を要し、他に風呂釜の代金二万六、五五〇円、水道工事代金二万〇、八〇〇円を支出したことが認められ、〔証拠略〕によれば、除外された基礎工事には少くとも金一三万円の費用を要することが認められるので、本件事故により原告家屋について原告が受けた損害は合計金一一五万一、三五〇円ということができる(原告と被告冨樫との間では少くとも金五〇万円の限度で争がない。)。

2  家具その他什器備品費

原告と被告鄭との間では成立について当事者間に争がなく、〔証拠略〕によれば、本件事故により原告は家具等にも損傷(全損と推認される。)を受けたが、右損傷家具等は購入価格で合計金一八万五、一〇〇円であつたことが認められるので、本件事故時の価格は少くともその二分の一である金九万二、五五〇円はあつたと推認され、従つて右家具等の損傷によつて原告が蒙つた損害は右金九万二、五五〇円というべきである。

3  慰藉料

〔証拠略〕によれば、原告は本件事故当時本件加害車が、直接とびこんだ原告家屋の四畳半の部屋の隣室(同じく本件道路に面している部屋である。)で小学校二年生の長男とともに就寝中であつた(前記認定のように本件事故が発生した時刻は午前六時ごろである。)こと、本件事故により原告家屋の扉に開閉できなくなる部分も生じたりして生活的にかなり不便を生じたことが認められる。ところで早朝就寝中居住家屋へ砂利を満載した大型貨物自動車にとびこまれた場合に生活の平穏が侵害された居住者が受ける精神的シヨツクの大きさは推測するのに難くなく、また本件事故による家屋損壊中に蒙つた原告の生活上の不便は単に扉に開閉不能の部分が生じた程度に止らなかつたことは容易に推認できるのであり、これらによつて受けた精神的損害はもとより家屋が修復されたことにより回復されるものではないから、家屋損壊による損害とは別個に、本件事故と相当因果関係にあるものとして賠償の対象となるというべきであり、本件の場合右精神的損害に対する慰藉料は金一〇万円をもつて相当とする。なお被告吉田商店および同東京都は右慰藉料請求が物損によるものとしてその相当性を争うが、右認定のとおり原告が受けた精神的損害は家屋損壊それ自体による精神的苦痛ではなく、本件事故およびそれに基く家屋損壊によつて生活利益が侵害されたことによる精神的損害であるから右主張は採用できない。

4  弁護士費用

右損害額および諸般の事情に照らし、本件事故と相当因果関係にある弁護士費用は金一五万円であると認める。

五  よつて原告の本訴請求は被告らに対して連帯して右損害金合計金一四九万三、九〇〇円及びこれに対する本件事故の日の翌日である昭和四七年一月一二日から完済まで法定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余の請求は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担については民訴法八九条、九二条、九三条一項、仮執行宣言については同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 國枝和彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例